皆さん、こんにちは。
VR、AR、MR、あるいは、それらを包摂したXRなる言葉も一般的になってきた現在、コンピューターが作り出す立体的な世界もかなりの技術発展を遂げています。
とは言え、VRと言えば、多くの人は、チカチカしたり時々焦点がずれたりする3Dメガネや、いかにも3Dオブジェクトと言ったグラフィックなどを思い浮かべるのではないかと思います。
私も例に漏れず、ある程度はそのようなイメージを抱いていたのですが、いずれBCI(Brain Computer Interface)のような、直接的/間接的な神経刺激による仮想現実〜拡張現実世界がやってくることを考えると、平面的なスクリーンから移行期が始まろうとしている今、こうしたものを触らないわけにはいかないと、VRゴーグルを購入してみた次第です。
もちろん、ここ最近話題の「メタバース」というキーワードであったり、facebookが社名を「META」に変更したというニュースなど、VR関連の話題があったことも多少は影響していますが、なんにせよ、こうしたものはきっかけがある時に触っておくべきかと思いますので、まずは価格が手ごろな、OculusのQUEST 2を購入してみました。
私がVRやメタバースと言うキーワードを聞いて思い浮かぶのは、かつて高城剛さんの会社であるフューチャー・パイレーツが作った「FRANKY ONLINE」です。これはインターネットが一般的になろうとしていた1995年に(立体視的なものでは無い)3Dグラフィックスで作られた仮想世界+ネットワークです。「FRANKY ONLINE」は仮想的な島をベースに世界が作られており、その中に立ち並ぶ商店や施設で、動画を見たり、メールを送ったり、ゲームをしたりと、2021年の現在にこのサービスがあっても違和感が無いくらい先進的なサービスでした。
しかし、当時はインターネットのインフラもさほど整っておらず、利用料も2時間まで月500円、以降は従量制で1分10円、インターネット接続はさらに1分10円が課金されるため、インターネット常時接続の無かった時代とは言え、気軽に利用できる金額ではありませんでした。又、コンテンツをダウンロードできるほど回線速度も十分ではなかったので、島に現れる店やゲームなどをCD-ROMで追加インストールすると言う形もやや利用者への敷居を上げていたのか、しばらくしてサービスは終了してしまいました。
私もコンピューター雑誌の付録についていたCD-ROMからインストールして触ってみたことがありますが、「面白そう」とは思ったものの、利用環境的にコンセプトが十分伝わらなかった記憶があります。いずれにせよ、やや先を行き過ぎたサービスだったのでしょう。
もう一つVRやメタバースから思い出されるのは「SECOND LIFE」という仮想世界のサービスです。SECOND LIFEの世界では現実世界のお金と換金できる通貨があり、土地を買うこともできればギャンブルもあり、又、日本で少し話題になった際には電通などが仮想世界の街に広告を出すなど、期待はされていましたが、これもグラフィック的な問題があったり、PCゲームすら一般的ではなかったため、やがて廃れてしまいました。ちなみに、SECOND LIFEはまだ存在していて、もはや注目されていない分、仮想世界内で使われている通貨(Linden Dollar)はマネーロンダリングに都合の良いインフラになっているのではないかとやや邪推してしまいます(当時もマネロンのために作られたんじゃないかと思いましたが)。
そんなVR的体験を経てVRゴーグルを購入してみたわけですが、Oculusを着用し360度に広がるOS(3D世界)を体感した際の感覚にはやや驚きました。この数年でゴーグル自体のスペックが向上しているということもありますが、振り向きに対しての描画反応もさることながら、奥行きのリアルさは、おそらくほとんどの人が感動するのではないかと思います。スマートフォンで言うところのホーム画面は、文字通りホーム=家が全方位に見えるのですが、よくある近未来映画のようにボタン一つで風景を変更することができます。QUEST 2は耳の両側にあるスピーカーも優れもので、立体的な音像はなかなかのものです。
私が最も試してみたかったのは、ゴーグルを通した3D環境で仕事をすることです。まずは、以前から気になっていた「Virtual Desktop」をインストールしてみました。「Virtual Desktop」という名前は、PCの平面的ディスプレイでの仮想デスクトップも意味しますし、Virtual環境の中でのVirtual Desktopというのも少しおかしな話ですが、これは立体視できる仮想空間の中にコンピューターの画面を投影することができるアプリです。実際に起動し、手元のコンピューターを接続してみると、仮想空間の部屋に置かれたディスプレイに自分のコンピューターの画面が表示されます。色々と設定を調整してみましたが、解像度が1832×1920ドットのQuest 2では、コンピューターの解像度を1920×1080以上に設定すると可読性が一気に落ちるため、PCの表示解像度を下げる必要があります。私は普段、最低でもドットバイドットの2560×1600ピクセルで作業しているので、これ以上解像度を下げると仕事では使えません。仮想空間上のディスプレイを手前に引くと画面が拡大された状態になるので、やや見えやすくなりますが、上下左右の端は見えづらくなりますので、これも使い勝手は悪いです。マウスやキーボードはPCに接続された物理的なものを使用しますが、反応は気持ち遅い程度です。
次に試したのは「Immersed」というアプリです。こちらも仮想空間にPCの画面を投影するアプリですが、Virtual Desktopと異なる点は、空間の好きな場所に画面を配置できる点です。又、仮想空間上に画面をいくつも追加でき、Oculusのコントローラーでデスクトップを移動したり隠したりすることができます。もちろん拡大縮小したり、奥や手前に移動することも可能です。なんと言っても、このアプリの一番の魅力は、手で操作ができることです。対応しているものならば、他のアプリでもコントローラーを使わず手で操作できますが、Immersedでは、映画「マイノリティーリポート」のように目の前に浮かぶコンピューターの画面を手で移動したりタップすることができるのです。しかしながら、こちらもOculusのスペック的に鮮明とはいえないので、仕事で使用するのは厳しいでしょう。又、バグも多く、設定中にいきなりクラッシュするなど、やや不安定な部分もあります。手のひらでの操作は面白いですが、慣れが必要ですし、反応も少しイマイチなので今後に期待です。ただ、Immersedはコラボ機能がありますので、ちょっとしたプレゼンなどであれば、同じルームに集まり、画面を視聴しながらミーティングすることもできます。今後は、学校の授業やセミナーなどでも使われるかもしれませんね。
と言うことで、3D〜VR環境で仕事をすると言うことは諦めてしまいました。5K表示が可能な「HTC VIVE Pro 2」などを使えば現実的になるのかもしれませんが、お試しで10万円台のゴーグルを購入するのは抵抗がありますので、もう少しVR関連を突き詰めたところで購入してみたいと思います。
一番利便性が高いのは映像配信サービスのアプリでしょう。中でもNetflixのアプリは完成度が高く、贅沢なホームシアターにいる雰囲気で視聴できます。ホームシアターモードを解除すると好きな位置に画面を移動できますから、ベッドで寝転んで視聴することも可能です。
その他は、3D体験に重きを置いた映像コンテンツやゲームがいくつかある程度で、まだまだアプリの数は少なく、スマートフォンアプリ黎明期のような感じがします。
私が一番期待していたのは仮想空間のオフィス環境でしたが、もう一つ期待していたのは「VRChat」という3Dアバターを使った仮想空間のアプリです。似たようなものは以前からありましたが、3Dゴーグル自体のスペック向上、高速なインターネット環境により、かなりの臨場感を体感することができます。映画「AKIRA」に超能力者の子どもが匿われているプレイルームと呼ばれる場所が登場しますが、この場所で超能力者の子どもが巨大なぬいぐるみを念力で作り出すシーンをリアルに体感できるのが現在のVRChatです。VRChatではワールドと呼ばれる部屋を自由に作ることができますので、PCや3Dの知識があれば、仮想空間に自分の好きな世界を作り、そこに人を呼ぶことができます。もちろんアバターも自作できますので、3Dのスキルがあれば、憧れの人やアニメキャラになりきることもできるでしょう。今のところはワールドを行き来し、フレンドを作って会話したりするぐらいの仮想空間アプリですが、現在のSNSやメッセージングアプリの延長として、こうしたメタバース系の環境が一つのインフラとなることは間違いないと思われます。
又、VRChatとは別のアプリですが、仮想空間でDJがプレイできる「TribeXR DJ」「Vinyl Reality」といったアプリも、DJとしては注目です。TribeXRはPioneerが協賛していて、DJのプレイを見たことがあれば必ず目にしているであろうCDJ3000SやDJM-900 NXS2といった機材を使用することができます。私はPioneer派ではないので普段CDJを使わないのですが、ざっと触ってみた感じ、“普通に”DJプレイが可能です。曲データはSoundCloud Go+に加入していればアプリからサーチ&ダウンロードも可能ですが、PCに接続してデータを転送すればそれらを使用できます。曲のアナライズが細かくできないため、HipHopなどをロードすると192bpmなどと解析されてしまい同期が難しいですが、手動でもピッチ調整はできます(RekordBoxを使用している場合はデータが流用できます)。次の曲をモニターする際は、ゴーグルの左右をタップするとCUEしているチャンネルをモニターできるなど、なかなか工夫が凝らされていました。
「Vinyl Reality」については、Oculusに直接ダウンロードできず、Windowsにインストールして接続するため、まだ試していませんが、Technicsのターンテーブル「SL-1200」シリーズをエミュレートした完全にアナログ仕様なので、こちらも面白そうです。
いずれのDJアプリも、Twitchなどで配信したり仮想空間に人を呼んでプレイすることができるので、今後、VRパーティーなどが開催されるようになれば、こうしたアプリが活躍しそうです。
VR関連は既に紹介記事が増えていて、私がこれらを紹介するのも少し今更感がありますが、端末やインフラとしてまだまだ一般的ではないVRを今のうちに体験しておけば、次にやってくる世界をより理解し、一層楽しめるようになるかもしれません。