皆さん、こんにちは。
Appleの新製品としてM1という名称のチップセットを搭載したコンピューターが発売され、それと同時に、OSもメジャーアップデートとなり、バージョン11系統であるコードネームBig Surがリリースされました。
M1というチップセットは、コンピューターの計算の核となるCPUの他に、グラフィックに関する計算を行うGPU、Neural Engine(NPU)と呼ばれる顔認証などの特定機能に特化したプロセッサー、プログラムを実行するためのメモリーであるDRAM、処理効率のためにデータを一時保存するキャッシュ領域が一体化したもののです。
ざっと一文で記してしまうと複雑な印象がありますが、要は、コンピューターがこれまで個別のパーツを寄せ集めて行っていたことを一個の部品に集めてしまおう、というのがM1チップセットなわけです。
そのメリットは、パーツ同士でデータ転送する際にボトルネックとなっていた転送速度を一体化により劇的に改善する、という点にあります。
CPUやメモリーはマザーボードと呼ばれる電子基盤に接続され、マザーボード上の電子回路を経由し、データをやりとりしています。
CPUやメモリー自体にも機能としての速さ(CPUの「Ghz」など)がありますので、単純に速いパーツを使えば解決されるように思いますが、それぞれのパーツはマザーボード上の電子経路を通ってデータをやり取りしますので、物理的に離れている上に、マザーボード自体も、使用しているCPUやメモリーの速度より遅い場合がほとんどです。
「遅い」と言っても、人間が認識できないような速さですから、超高速演算の中での「遅い」ですが、マザーボード上で物理的に離れている上に、マザーボード上の遅い道を通ってデータをやり取りするのでは、CPUやメモリーの機能をフルに発揮できていないわけです。
ですので、今回導入されたM1チップというものは、主要パーツである上記の部品を一つにまとめてしまった=物理的なボトルネックを改善したとうことが、コンピューター速度の飛躍的向上につながるということになります。
PCやスマートフォンが一般的になって以降、主にCPUの速度は、簡単に言うと「GHz」のようなクロック周波数の数字を上げることで、コンピューターのスピードを向上させているように“見せて”きました。
実際、クロック周波数が上がれば処理速度は上がりますが、前述の通り、他のパーツにボトルネックがあると、その数字を100%活かすことができません。
この頭打ちになった状況を打破したのがM1チップだとも言えます。
又、他のニュースメディア等でも言われているように、ハードウェアとソフトウェアを全て自社で開発するということが、今は亡きSteve Jobsの目標の一つでもあったようですので、その理想には一つ近づけたのではないかと思います。
Appleは今や世界的巨大企業の一つですから、ハードもソフトも自社で賄うとなると「一社による独占」という問題も指摘されるようになりますが、それはさておき、ハードウェアが自社開発であれば、ソフトウェアはよりハードに最適化された開発が可能になり、コンピューターの高速化・安定化に拍車がかかります。
もっともM1チップ自体はARMという他社が作ったアーキテクチャーをベースとしているため、完全にApple純正とは言い難いのですが、以前の記事でもお話ししたように、macOS自体もXeroxのAltoを模倣したものですので、Appleは他社の良い技術をうまくリミックスし自社のオリジナルにするのが上手い企業なのでしょう。
話はやや逸れましたが、その自社ハードウェアに最適化したOSが、今回リリースされたmacOS Big Surなのです。
Big Surは、インターフェースからも分かる通り、よりiOSやiPadOSに寄せてデザインされており、内部的にもiOSやiPadOSのアプリが動作するよう設計されていますので、先行して自社のチップセットであるAシリーズ(A14など)を搭載していたiPhoneやiPadの構造をmacOSに応用するような流れで開発されています。
Appleは以前から「macOSとiOS(やiPadOS)との統合は無い」と明言していますが、意外と早い段階で統合されるのかもしれません。
そのBig Surですが、初物メジャーアップデートにはありがちな話で、動作の不安定さや、サードパーティーソフトの対応状況など、ややネガティブな話題を目にします。
そのため、現時点ではインストールを見送る人も多く、又、自社製品の対応が間に合っていないソフトなどは、メーカー自らインストールを見送るようアナウンスしています。
私はと言えば、これまでベータ版をいち早くインストールし、新しい環境や技術に触れることを率先してやっていましたので、多少の動作不安定などは気にしていなかったのですが、ある時、使用頻度の多いソフトが使い物にならないくらいに動作不安定になったことがあり、それ以降はベータ版をインストールしたり、メジャーアップデートを急がないようになりました。
ただ、Big Surについては、割とインターフェース面での改善が気になっていましたので、趣味で使用しているNative Instruments社のMaschineや、Ableton社のLIVEが未サポートという状況を無視して、インストールすることにしました。
結果、それらのソフトは(少なくとも私の環境では)特に問題なく動作していますが、それ以外の点でいくつかの不安定要素があります。
まず、スリープ時の不具合です。私の場合は、スリープ直後に強制再起動がかかることが時々あります。「Sleep/Wake Hang」というKernel Panicが起きていますので、電源管理などに不具合があるのかもしれません(もっとも、サードパーティー製ソフトの干渉も大いに考えられます)。
それと、純正にも関わらずSafariが不安定になることがあります。Safariはメモリー管理が優れているのか劣っているのか、メモリ喰いなページは「リソースを大量に消費している」と警告を出して、動的な表示を停止することがあるのですが、これがSafari自体を無反応にさせたり、不安定にさせることがあります。この点については、Appleですから、かつてのAdobe Flashの排斥のように「表示しているページの構造に問題がある」という回答をするような気がしています。
又、ディスプレイの環境設定には、環境光に合わせて輝度を調整する機能がありますが、これを有効にしていると、明るい場所で画面全体のホワイトバランスが過剰に設定されて白っぽい画面になることがあります。この問題については、設定を無効にすることで改善されます。
それ以外は特に問題無く動作していますし、Finderを初め、Adobe CCなど他社ソフトウェアの速度が向上しているように感じましたので、私のケースであれば、上記の不具合を無視できるくらい、インストールの恩恵は大きかったように感じます。
又、気になっていたインターフェースですが、特に不満があったFinderは、「得も言われぬ気持ち悪さ」がデザイン的にかなり改善されました。現在のFinder(ファイルマネージャー)は、Steve JobsがAppleへ復帰する際に持参したNeXT社のOS、NeXTSTEPのファイルマネージャーを踏襲しています。厳密に言えば、NeXTのファイルマネージャーも、UNIXやLinux系のGUIであるX11をベースとしたファイルマネージャーを流用(模倣)したものですが、このスタイルのFinderは、かつて存在していたMac OS X Server、開発版の時代で言うとRhapsodyから導入されました。完全なるマルチタスクOSとなったMac OS Xは非常に革新的でしたが、私的に「Finder」だけは「よくわからないけど使っていて気持ち良く無い」という感想がmacOS Catalinaに至るまで続いていたので、Big Surのデザイン刷新は割と満足度の高いポイントでした。
具体的には、ファインダーウインドウのシームレス感や、アイコン部分の改善による統一感が大きなポイントなのではないかと思います。
これは、Safariなどの純正アプリケーションだけではなく、Big Surのインターフェースに準拠したサードパーティー製アプリケーションも同様に「シームレスさ」、つまり、ウインドウ内の要素における色彩や形状などのバランスが改善されています。
私は、いわゆる「Apple信者」というレベルのApple贔屓ではありませんので、他のOSも使用していますが、Windowsと比較するならば、Windowsはmac OSに比べてOSの基本デザインの詰めが甘いと常々思っています。ただ、Windowsのファイルマネージャー(Explorer)には昔から存在する「切り取り」というメニューが、いまだmacOSに無いのは合点がいきません(ただし、コピーした後にCmd+Option+Vで同様のことができます)。
長々と書いてしまいましたが、Big Surは、仕事で使用しているアプリケーションが未サポートならば、ほとんどの人はアップデートを見送った方が良いでしょう(本稿執筆時点)。
しかしながら、Rhapsody時代からずっと未成熟だったmacOSも、ようやく成熟してきたように思いますので、これから新しいMacを購入される方は、インターフェースデザインなども含め「気持ち良く」Macを使えるのではないでしょうか。
iPadOSもいい感じになりつつはありますが、macOSとiOS/iPadOSが統合され、モバイル端末でもmacOSと同等のことができれば、真のモバイルと環境と言えるようになるのではないかと思います。