皆さん、こんにちは。
新型コロナウイルスにより自粛傾向になって以降、劇場映画は、封切延期どころか、撮影が止まってしまった作品があるくらいの停滞状況ですが、コロナ以前にアメリカで公開されたものの、日本での公開があるのかどうかもわからなかった「mid90’s」という映画が日本で劇場公開されたので、打ち合わせで外出したついでに鑑賞してきました。
この映画は、有名な俳優であるJonnah Hill氏が監督を努めた映画で、特にHipHopやスケートボードのシーンを描いたこともあり、その界隈では話題になりました。
「話題になった」と言っても、作中でフォーカスされるHipHopやスケートボードカルチャーは、あくまでも当時のアングラシーンであり、もう25年以上も前のことですので、それらのシーンを知る人はさほど多くありません。
本国公開時には、NPR(アメリカの公共ラジオ局)で放送されていたStretch ArmstrongとBobbito Garciaの番組にJonnah Hillが出演しインタビューを受けるなど、ちょっとした盛り上がりはありましたが、リアルに90年代中期に撮影され、同じHipHopやスケートといった若者カルチャーを描いた映画「KIDS」ほどの話題にはなりませんでした。
実際、私が見た感じでは、5点中3.6点といった内容でした。
当時の雰囲気はよく描かれていましたが、映画としてはあと一歩、というのが正直な感想です。
ただ、この映画の見所は、当時のHipHop〜スケートキッズの好んでいたアイテム達です。
ほとんどの人は気付きませんが、主人公Stevieが兄の部屋に入った際に見えるカセットテープのコレクション、これらは前述のStretch ArmstrongとBobbito Garciaが、コロンビア大学のラジオ局で1990年から1998年まで放送していた「Stretch&Bobbito Show」という、HipHop史上で最も評価されているラジオ番組の録音テープです。
この「Stretch&Bobbito Show」は、当時コロンビア大学の学生であったAdrian Bartosと、DefJamに務めていたBobbito Garciaが始めたラジオ番組で、木曜の深夜に放送されていました。
この番組では、Biggie Smalls (Notirious BIG)やJayZと言った誰もが知る大物はもちろんのこと、BigL、Lord Finesse、KRS-One、Wu-tang Clan、Q-tip、Black MoonやSmif’n’Wessunなど、90年代に名を馳せたHipHopアーティスト達が、メジャーになる以前、あるいは、レーベル契約も無い状態から紹介され、番組内で数々のフリースタイルを披露してきました。
そして、Adrian BartosことDJ Stretch Armstrongは、メジャーなヒットナンバーをかけるということはせず、シングルに収録されたRemixバージョンや、アルバムで誰も注目しないような名曲、あるいは、リリースされていないDJ用のプロモ版や、お蔵入りになった曲などばかりかけていましたので、現在のようにインターネットで曲をやりとりしたり、デジタルでDJなんてできなかった90年代には、カルト的人気を博していました。
そのStretch&Bobbito Showを録音したカセットテープは巷で売られるようになり、Leaders of The New SchoolのBusta Rhymesなどは、後に製作されたStretch&Bobbitoのドキュメンタリー映画で「売れなかった頃に番組のテープを売ってお金を稼いでいた」と告白しています(彼自身もこのラジオ番組に出演しています)。
それほどカルト的人気があったStretch&Bobbito Showのテープコレクションを、本作の主人公が眺めると言うカットは、ある意味、タイトルである「mid90’s」を強く象徴している場面でもあります。
他には、HipHopキッズを中心に有名ブランドのスポーツラインに火をつけたPOLO SPORTSや、NEW ERAが無かった時代のベースボールキャップなど、mid90’sのHipHopファッションも見所の一つと言えるでしょう。
又、前述の「KIDS」をオマージュしているシーンもいくつかあり、スケートパークで顔なじみと挨拶をする場面や、ホームパーティーで女の子達とチルアウトする場面などは、「KIDS」ファンならば胸熱のシーンなのではないでしょうか。
私自身、90年代はHipHopカルチャーににどっぷり浸かっていましたので、その思い入れから評価できている部分はありますが、HipHopやスケートカルチャーに関心が無ければ、「ちょっとお洒落にまとめられた90年代を描いた映画」程度に見られてしまうかもしれません。
あるいは、Jonnah Hill自身が若い頃の思い出を映画化した、彼自身の趣味作品とも言えるかもしれません。
いずれにせよ、90年代のHipHopやスケートカルチャーに興味のある方、当時のシーンにはまっていた世代の人には響く映画ですので、機会があれば、ぜひ見てみてください。
マイナー映画なので公開している劇場数もそれほど多くありませんが、おそらくは近く動画配信サービスでも配給されるのではないかと思います。